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【日経新聞】霞が関2016夏 早くも?経産省がもくろむ「第5次産業革命」

 政府は6月初旬に決めた成長戦略で「第4次産業革命」の実現を柱に据えた。人工知能(AI)やロボット、あらゆるモノがインターネットでつながるIoTの関連市場を拡大していけば、潜在成長率が伸び悩む日本経済の起爆剤になるとのシナリオだ。その戦略づくりで中心となった経済産業省が早くも「第5次産業革命」の実現に向けて動き始めた。次はバイオテクノロジーだ。

■バイオ、再び脚光を浴びるわけ
 経産省がバイオの中でも注目するのは生物の持つ潜在機能だ。動物の生体や植物が持つ複雑な機能を掘り起こし、最新のテクノロジーで加工、制御すれば、石油由来の製品では実現できなかった高度な素材や製品が生産できるようになる。
 例えば、昆虫のタマムシの鮮やかな光沢をつくる表面構造を応用し、光によって表面を発色させる技術。色素を使った化学塗料を着色するのと異なり、年月を経ても色あせることがない。この技術が普及すれば、自動車や家電など身の回りの工業製品の発色方法が一変する可能性を秘めている。タマムシやカイコの機能を応用した技術開発に長年取り組んできた東京農業大学の長島孝行教授は玉虫色のバイオリンの模型を手に「石油由来の製品に比べて人体や環境にも優しく、(昆虫を含めた)バイオ関連技術は今後必ず盛んになる」と訴える。
企業も注目する。三菱化学は既に植物由来の樹脂である「デュラビオ」を複数の自動車メーカーの部品用に提供している。石油由来の樹脂に比べて熱や衝撃に強く、現在年5000トンの生産能力を2020年までに2万トンに引き上げる。鋼鉄よりも丈夫な人工クモ糸繊維の製品化を進めるベンチャー企業もある。
 これまでも何度かブームとなったバイオテクノロジーだが、再び「産業革命」と脚光を浴びるようになったのには3つの背景がある。1つはコストの低下だ。DNAの解読費用は1日あたり1000ドル(約10万円)と7年前の約1万分の1にまで下がり、「遺伝子解析は学生が手軽にやるもの」(長島教授)になった。そして、情報解析技術の深化とゲノム編集技術の進展だ。AIを使った高精度な分析に加え、簡単に遺伝子を切断、編集できるようになり、実用化のハードルが格段に下がった。

■それでも周回遅れ?
 経済協力開発機構(OECD)の予測では、加盟国のバイオ関連市場は30年に約1.6兆ドルと国内総生産(GDP)の2.7%を占めるようになる。その内訳も工業39%、農業36%、健康関連産業25%と恩恵を受ける産業のすそ野は広い。経産省の資料には「輸送燃料は石油からバイオ由来への代替が進み、環境への負荷が軽減。遺伝子組み換え作物の増加により、食料供給量が拡大し、世界の食糧危機を回避」といったバラ色の未来像が描かれる。経産省幹部は「バイオで世界のエネルギー問題や食糧問題を解決できる可能性がある。これはAIやロボットでは不可能だ」と力を込める。

 ただ、その言葉とは裏腹に日本は欧米に比べ一周遅れといえる状況だ。ドイツは11年、米国と欧州連合(EU)は12年、英国は16年にそれぞれバイオエコノミーに関する国家戦略を打ち出し、覇権争いに動いている。日本は遺伝子組み換え作物への抵抗が国民の間で根強い事情があるとはいえ、バイオを農業を含めた産業振興にどう位置づけていくかの議論が盛り上がりに欠ける状況だ。  「霞が関の縄張りを無視してでも、次から次へと政策を打ち上げてくる」。大きな予算を持たない経産省は時にこう揶揄(やゆ)されながらも、経済成長に向けた大きな絵を描こうとしてきた。「産業革命」という大風呂敷を経済成長につなげられるか。それとも掛け声倒れに終わるのか。その帰結は国内産業の浮沈を左右する可能性もある。 (中野貴司)

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